免税事業者の留意点

1.免税事業者への影響

 これまでは買手(仕入れ)側は、免税事業者からの仕入れであっても仕入税額控除を受けることができました。しかし、適格請求書等保存方式(インボイス制度)導入後は、免税事業者からの仕入れでは仕入税額控除を受けられないため、免税事業者からの仕入れを控える動き等が起こる可能性があります。
 免税事業者のままでは適格請求書発行事業者に登録できないため、課税事業者を選択した上で登録申請を行うかどうか、検討が必要です。
 免税事業者が適格請求書発行事業者に登録するためには、まずは「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者となる必要があります。

2.免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置

 適格請求書等保存方式の開始後は、免税事業者や消費者など、適格請求書発行事業者以外の者(以下「免税事業者等」といいます。)から行った課税仕入れは、原則として仕入税額控除の適用を受けることができません

 ただし、制度開始後6年間は、免税事業者等からの課税仕入れについても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置が設けられています。

(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-」)

3.適格請求書発行事業者の登録や簡易課税制度を検討

 一定期間内であっても仕入税額控除が一部できなくなります。事業者向けに販売等を行っている場合は適格請求書発行事業者にならないと、消費税額分の値引きを要求される可能性や、取引から除外される可能性があるため注意が必要です。

 そのため、課税売上高が1,000万円を超えない事業者であっても、適格請求書発行事業者に登録することを求められる可能性があります。その場合、簡易課税制度が有利になるケースも考えられるので、課税方式の有利不利の判定が必要となります。

4.個人事業主の場合の法人成りの検討

法人成りをすることで最大2年間の免税

 課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合には、消費税の納税義務が免除されます。したがって、新たに開業した個人事業主または新たに設立された法人のように、その課税期間について基準期間における課税売上高がない場合または基準期間がない場合には、相続・合併等の一定の場合を除き、原則として納税義務が免除されます。

 つまり、個人事業主が法人成りにより新規に法人を設立した場合には、個人当時の課税売上高はその法人の基準期間における課税売上高に含まれませんので、最大2年間は免税となります。

法人成りのタイミング

 令和5年10月1日以降は、適格請求書発行事業者しか適格請求書(インボイス)を発行できません。対事業者向けの販売等を行っている事業者は、仕入税額控除の適用を受けるためには適格請求書を発行せざるを得ないために、課税事業者を選択する必要があります。最大2年間の免税を実現するためには、令和3年10月1日までに法人成りをしておく必要があります。

法人成りの注意点

 消費税の免税手続きや免税対象事業者の判定については、届出書の提出タイミングや簡易課税制度の届出等が非常に複雑です。また、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間における課税売上高(給与等支払額で判断することも可能)が1,000万円を超えた場合、当課税期間から課税事業者となります。事業規模によっては最大2年間の免税を受けられないケースがあり、事業年度の設定で有利不利が発生することもあります。

【例】売上税額150万円、仕入税額50万円の飲食店が法人成りした場合

消費税額計算式
本則課税の場合100万円150万円-50万円=100万円
簡易課税の場合60万円150万円-(150万円×60%)=60万円
免税の場合0円

5.免税事業者の適格請求書発行事業者への登録手続

⑴ 令和5年10月1日を含む課税期間中に登録を受ける場合(経過措置)

令和5年10月1日を含む課税期間中に登録を受けた場合は、登録を受けた日から課税事業者となることが可能です。

(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-」)

⑵ 令和5年10月1日を含む課税期間の翌期以降に登録を受ける場合

 経過措置以外の課税期間について免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、登録申請手続を行うだけでなく、消費税課税事業者選択届出書を提出する必要があります。

(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-」)

⑶ 登録に当たっての留意点

適格請求書発行事業者になると…

→ 基準期間の課税売上高が1,000万円以下となっても、登録の効力が失われない限り、申告が必要です。

→ 取引の相手方(課税事業者に限ります。)から求められたときは、適格請求書を交付しなければなりません。
登録を受けるかどうかは、事業者の任意です。

⑷ 簡易課税制度を選択する場合の届出書の提出

 簡易課税制度は、課税期間の基準期間の課税売上高が5,000万円以下であり、原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している場合に適用することができます(簡易課税制度の選択は任意です。)。
 ただし、免税事業者が令和5年10月1日の属する課税期間に適格請求書発行事業者の登録を受け、登録を受けた日から課税事業者となる場合、その課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した届出書をその課税期間中に提出すれば、その課税期間から簡易課税制度を適用することが出来ます。

(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-」)